【養蜂家 辻のミツバチ雑記 vol.3】〜養蜂教室や体験会について思うこと〜

【 趣味養蜂の広がりと、専業養蜂の役割について】

最近、Instagramなどで「養蜂教室」や「養蜂体験会」の案内をよく見かけるようになりました。
ミツバチの飼育は、自然と向き合いながら命を育てる素晴らしい営みであり、

「趣味として楽しい」という感覚もとてもよく分かります。

ただ一方で、趣味として養蜂をされる方が増えていくことについて、

専業養蜂家として少し考えていることがあります。
最初にお伝えしておきたいのは、対立を煽りたいわけではないということです。
そのうえで、「事実として考えておきたいこと」を静かに整理してみたいと思います。

【ミツバチは「家畜」であり、伝染病の管理対象でもある】

まず1つ目の理由として、ミツバチは牛・豚・鶏と同じく「家畜」に分類されています。
家畜伝染病予防法の対象でもあり、

伝染病やダニの被害については細心の注意を払う必要があります。

しかしミツバチは、家畜の中でも少し特殊な存在です。
鶏や牛のように柵の中で飼うことはできず、

半径2kmほどの範囲を自由に飛び回ります。
つまり、所有者の違うミツバチ同士が同じ花を共有し病気やダニを媒介してしまうリスクがあります。

もし指定伝染病が確認された場合、その場で全群焼却処分となり、

近隣の養蜂場も移動禁止・検査対象となります。
その影響は決して小さいものではありません。

現在、国内では概ね2km前後を配置調整の目安としている所が多いですが、

本来は蜜源共有を避けるには4km以上必要とも言われています。
しかし、日本では蜜源が限られているため、現実的に4kmを確保するのは難しく、

養蜂家同士がリスクを分かち合いながら成り立っているのが現状です。

ただそのリスクは
 • 趣味として楽しむ方
 • 生活を支える生業として取り組む者

この両者で、重みが同じとは言えません。
大規模な養鶏場の隣に趣味の鶏小屋があるような状況を想像すると、

少し伝わりやすいかもしれません。

鳥インフルエンザの事を考えると恐ろしい状況ですよね。

【専業養蜂家には「受粉交配」という重要な役割がある】

養蜂には蜂蜜生産という目的がありますが、

専業養蜂家にはもうひとつ大きな役割があります。
それが「農作物の受粉交配に必要なミツバチを、

安定して生産・供給すること」です。

いちご・りんご・スイカ・メロンなど、

ミツバチによる受粉が大きく関わる作物は国内にたくさんあります。
そのミツバチの安定供給を担っているのが、専業養蜂家です。

ただし、趣味養蜂が急激に増えていくと
 • 交配用ミツバチの生産リスクが増す
 • 新規専業養蜂家の参入が難しくなる
 • 既存養蜂家も規模拡大が難しくなる

といった問題が起こり得ます。

特に今後、高齢化による廃業が増えていく中で、

空いた地域を趣味養蜂が埋めてしまった場合、

配置調整の折り合いがつかず、新しい専業養蜂家が入りづらくなったり、

既存業者の規模拡大が難しくなる可能性があります。
実際にいくつかの地域では趣味養蜂の増加により、

専業養蜂家の参入が不可能となったり、場合によっては追い出される事例も出てきています。

しかし、国内の農業界では、今後も交配用ミツバチを必要としています。
だからこそ

「趣味養蜂家の増加は、国内農産物の安定供給にも影響し得る」

という点は、冷静に考えておく必要があるのではないかと思っています。

【技術を「教える責任」について】

ここで特に考えたいのが、
「高額な授業料を伴う養蜂教室や技術指導を行っている方々の立場」です。

昔の養蜂業界では、丁稚奉公のような形で数年間修行をしなければ、

技術の核心や業界の慣習を学ぶことはできませんでした。
それは単なる「閉鎖性」ではなく、
 • 中途半端な規模と技術の養蜂家を無責任に増やさないため
 • 業界全体として社会的責任を果たすため

という意識もあったのだと思います。

私自身も3年間修行をする中で多くを学び、

そのおかげで独立後も安定してやってこられました。
当時は、技術を教える側・学ぶ側の双方に「覚悟」があり、限りある蜜源をどう活かし、

社会に還元していくか、という責任感が共有されていたようにも思います。

では今、受講者が最終的にミツバチを飼育することを前提に養蜂教室や体験会を提供する方々は「養蜂技術を教えることへの社会的責任」について、どのように考えているのかが気になります。

これは批判でも断定でもなく、
業界全体として一度立ち止まって考えてみる価値のある問いだと思っています。

【趣味養蜂を否定したいわけではない】

最後にもう一度。
個人としてミツバチと関わり、自然を感じ、蜂蜜を採る。
その喜びを否定したいわけではありません。
趣味養蜂から専業養蜂家になった人も何人もいます。

ただ、日本の農業と養蜂は密接に結びついており、
「受粉という農産物生産の根幹を担っている産業でもある」
ということを、少しだけ頭の片隅に置いていただけたら嬉しいです。

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